Episode commentaries of K-On!! (Season 2) by Director Naoko Yamada and the scriptwriter of each episode.
Episode 1
山田監督の見どころ解説
———1話の演出のポイントは?
「初めまして」と「ただいま」を両方感じてもらえるようにということですね。第1期を見てくださっていた皆さんはキャラのことも話のことも大体わかってるじゃないですか。しかもアクシデントが起こるような作品ではないですから、次にもう一回同じようなものを見たときにどんな気分になるだろうかなと考えると、とにかく新鮮味を感じていただきたいと思ったんです。とはいえ、作品の雰囲気を変えるのは一番してはいけないことだと思ったので、第1期の空気感を守ったまま、もう一回新鮮な気持ちで唯たちを見つめ直してもらうことを念頭において作業しました。
———1話を作る際に意識したこと。
『けいおん!!』全編を通しての話になりますが、客観的な目線が入っていると思います。キャラの主観になることもありますが、どちらかというと唯たちを記録している客観的な目線をより多く感じられるような作品になっているんじゃないかなと。特に1話はカメラを引いた絵作りをすることで、あまりキャラの心情に近寄りすぎず、どういう子たちかというのをちょっと引いた目で見られるようにしています。
———印象的なシーンについて。
校歌の2番が流れるシーンですね。これからの唯たちの1年間を感じるカットになればいいなと思って作りました。1分近くあるんですけど、そんなに長くなく感じられたので、あそこでクラスメイトを紹介しつつ、唯がどんな子かを見せています。またアバンで唯がギターを弾くシーンでは、聞こえづらいんですけど唯は鼻歌を歌っています。音量は「あれ、もしかして唯が歌ってる?」というくらいにすることで、さりげなさ、素朴さ、息づかいを感じられるようにしたかったんです。そうすることで少女のきらめきを記録できれば、と。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———1話の見どころは?
1話は結構、稿を重ねました。第1期1話は唯が初めて音楽に出会うというフレッシシュなエピソードでしたが、第2期になると音楽ともみんなとも出会っている。じゃあ何で新鮮さを出すかというところを、スタッフ一同すごく悩みました。その結果、無理に新鮮でなくてもいいんだという結論になったので、もう音楽をやっているところから入り、「このままでやっていこう」と思う1話になりました。
———アバンで唯が腕をぐるぐる回しているシーンが印象的です。
最初は第1期と同じように走ってくるところから始めようという意見もあって、そこのパターンの脚本も書いたんですけど、監督がギリギリまで悩まれていて、「やっぱリギターを弾いているところから始めたいです」と変わったんです。
———稿を重ねて当初と変わったところは?
最初は物語の視点が梓になっていました。下級生の枠は軽音部でありながら客観的に見ることができるポジションなので、梓視点のほうが話を作りやすかったんです。そこを、なるべく唯の方向に持っていくという直しをしましたね。梓のモノローグが多めなのはその名残です。
Episode 2
山田監督の見どころ解説
———2話は1話に比べてテンションが高いですね。
日常系アニメなので基本的にはゆったりしているんですけど、その中でも緩急は付けた方がいいと思ったんです。やっぱり面白いこと、楽しいことをするときには思いっきり楽しい話数にした方がいいので、楽しいテンポのノリで。1話で「こういう作品になりますよ」というのを見せておきつつ、2話で楽しいテンポの話を見てもらって「こういうこともします」「ここまで振ります」と、少しずつ方向性を示していければと考えて作りました。
———お金に目がくらんだ律が面白いです。
演出の石原さんをはじめ男性スタッフが「律は大丈夫かな?がめつく見えない「かな」と気にされていました。そこで、悪さをするならみんなでしちゃおうということで、ほかの部員たちも加えたんです。みんな一緒になってあおった方が罪がないんじゃないかなと。
———それが背後での「食え、食え」ですね。
そうですね、なるべく律ひとりが悪くならないようにするための演出です。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———2話のシナリオを書く上で、注意したことは何ですか?
第2期の最初の担当ということで、なるべくオーソドックスに5人の話を描くということ。最後に卒業するという流れが決まっていたので、なるべく楽しい話にすることを心がけました。ペットがスッポンモドキになったのは監督の拘りです。
———楽しい内容にするとのことですが、その過程で苦労した点を教えてください。
難しかったのはお金をネコババする所でしょうか。シナリオでは土下座は律ひとりで、澪と枠が横から突っ込むという流れでしたが、本編では全員になっていて、きつくなりすぎないように緩和してもらっています。自分が書いたシナリオで、放送時にここまで笑ったのは多分、初めてだと思います。
Episode 3
山田監督の見どころ解説
———さわ子先生が普段よりもキラキラに描かれているのは?
3話のテーマだからです。大まかなテーマとしては律がドラムを大切に思う話なんですけど、その話を流すためのサブのテーマとしては、律がキラキラしたいということかなあと。綺麗になりたいとかちょっと女の子の気持ちになるというのが副題としてあるので、その比較対象になるものが必要なのでさわ子先生がああいう演出になりました。
———律の横顔が多いイメージがありました。
横顔が好きなんです。正面顔で物を考えさせると感情が平坦になってしまって大味な画面になるような気がしていて。物思いをしたり、ちょっと心を動かされたりしたときは横顔に振ってしまうことが多いですね。見た目としても立体的になりますし、少し動くだけでも横の移動が見せられるんですよ。感情の動きを出したいと思った場所は横顔をよく使ってしまうかもしれません。それと、キャラを私たちの視線から逃がしてあげるとか言いつつ美しいから、というのが一番の理由かもしれません。
———最後にさわ子先生はどうなったんでしょうか?
肌が荒れちゃったみたいです。お化粧品がちょっと合わなかったみたいで。よく男性の方に質問されました。あれはどうなったのって。女目線でいくと「荒れたか「な」っていうのがなんとなく分かるんですけど、それに対する説明があまり無かったなと。もうちょっと分かりやすくすればよかったと、ちょっと反省です。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———3話は音楽の話をしたいから入れたとのことですが、あえて律にした理由は?
『けいおん!!』制作に当たってガールズバンドの方たちに取材したんですが、そのときドラムの人が「ドラムは後ろにいるから自分に視線が来ない。みんな私のことを見ない」とおっしゃっていたのが印象に残っていたからです。あとは第1期のときに律の話はあまりできなかったのでやってみたいというのもありました。
———後半は律が音楽を始めた頃のことを思い出しています。
唯は高校生から音楽を始めたわけですけれども、律や澤はその頃からの思いもあるんだろうなと。唯とはまた違った音楽や楽器に対する思いがあるんだろうなと。唯とギー太の話はその後にやる予定があったので。
Episode 4
山田監督の見どころ解説
———4話もテンポの早い回ですね。
普段もテンションが高いんですけど、よりはっちゃけすぎちゃって、ともすればね。そういうのが描きたくて。うるさいくらいの感じにしました。旅行に行ったときってテンション上がりますよ
———寝言の「しゃれこうべ」は?
あれは私の姉とのやり取りから来ています。寝る前にいつもああやって遊んでたんです。ちなみに和が道に迷ったのは、彼女がしっかりしているのに実はすごく大きいところが一個外れていそうな、それでも態度はお姉さんぽいというそのギャップがすごく可愛いくて、彼女の魅力が出ているんじゃないかと思います。第1期7話でもクリスマスプレゼントに海苔を持ってきたりしてましたね(笑)。和がやることだから当たり前だと思ってなんか納得してしまうけど、端から見ていると「あの子ちょっと変わってるな」って思っちゃうところが和の魅力だと思うんです。でも本当は、しっかりしている子で生徒会長にもなれるような子なので、普段から抜けているわけじゃないと思うんですけど。
———4話は屋外と屋内の切り替えが多く、光源に合わせて色使いを変えていますね。
4話は贅沢に背景をたくさん作りました。電気の豆球とか当たり前にあるような色の変化ですよね。部屋の中でも電気が消えているのと、電気が消えかけの豆球と、普通に点いている3種類ありましたし。外では唯たちが道に迷うあたりのシーン、タ焼けの夕日が落ちていく様子を4色くらいで作りました。通常、夕景は2色か3色くらいでやりくりしてもらうんですけど、この話では4つくらい作っていて。夕景の中割りって言われていて、すごく綺麗な絵になっていました。
担当脚本家・村元克彦さんよりひとこと
———修学旅行という一大イベントを描かれた際のポイントは?
唯たちの修学旅行らしく、単なる「観光地巡り」というよりは、いつもの部活を外に持ち出したような感じになっています。このメンバーで移動すれば、どこであっても部室の雰囲気になってしまう、それが『けいおん!!』ではないでしょうか。
Episode 5
山田監督の見どころ解説
———5話は4話と対照的にゆったりしていました。
シリーズ構成の吉田さんもおっしゃっていましたが、子猫がころころ遊んでいるような、甘えているような話数になればと思って花田さんに書いていただきました。
———梓の言葉遣いが敬語ではないのが新鮮ですね。
テンションも低めで素に近いです。可愛かったので、あれが見られただけでも儲けものかなと思ってしまいました(笑)。純にいいようにやられているという描写もありましたし、この話数ができてよかったです。
———軽音部のお泊まりというと、合宿やクリスマス会で雑魚寝したりはありましたが、友達同士のお泊まりということで新鮮味がありました。
ちょっと真面目そうな、あまりはしゃがなそうなところも梓たちらしいですよね。静かに9時半くらいに寝ちゃうところも、本当に子供だよなって。実際の高校生はそこんなに早く寝ないと思うけど、でもすごく彼女たちらしい時間に寝ていましたね。ちなみに枠が顔を蹴られたのは、朝起きたら私の足が親友の顔に乗っていたことがあったという私の実体験です(笑)。実体験を少しずつ混ぜて、自分の人生を切り売りしています(笑)。
———朝、鏡の前で3人が髪の話をしていますが、ああいうところは、女性からのアドバイスがあったりするんでしょうか。
逆にあれは男性の憧れというか、見たいものに近いような気がします。あの話数は演出も男性だったので、より綺麗に描かれている感じです。以前、宮崎駿さんが『千と千尋の神隠し』で千尋が髪を結ぶシーンを男性に担当させたという話を聞いてなんでだろうと思っていたんですけど、あのシーンをやってなんとなく、宮崎さんの言わんとするところがわかりましたね。あっ、とは言え原画担当は女性です。ややこしくてすみません(笑)。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———4話の修学旅行と同じ時間軸ですが、対比は意識されたのでしょうか。
子猫がじゃれあっている雰囲気です。と吉田さんからイメージをもらって書き始めた話です。せっかくの休みでせっかくみんなと一緒にいるのに、なんか何もしないまま過ぎていく・・・・・・。って経験、誰にもあると思うので、その空気感みたいなのが出せれば修学旅行と対比になって、いいなと思ってあんな話にしてみました。原作がない完全オリジナルだったので、多少迷いもしましたが、3年生の教室に行ってみよう。とか、お母さんが持ってけって、と寿司もってきちゃう梓とか、「ああ、あった「よなぁ」と思い出せるネタがいっぱい入っててお気に入りの話です。
Episode 6
山田監督の見どころ解説
———6話の梅雨の話ですが、5話に引き続きの話なのは季節柄のせいでしょうか?
そうですね。今回は2クールあるので季節感をしっかり追うようにしました。
———6話は梅雨のためか全体的に画面が暗めです。
それだけに、どんよりしないようには気をつけました。画面が暗くなってしまい、それが1話分あると見ている人が不安になったり、心理的に何かあるかなと思ったので。なので曇り空を描く際も、雲がかかっているけどその上に梅雨らしい紫外線を感じるような白い空を表現するためにちょっと明るさを足してもらったりとか、その辺を気にしながら作りました。嵐ではないし、晴れることもありそうな空という感じです。
———律はボタン付けが上手いというのが意外でした。
なにげに家庭的なところが、今後の話数でも見え隠れすることがあります。とはいえ、絵としてはあまりしっかり見せないでおこうと思っていたので、短めのカットにしてもらっています。律が家庭的な子というキャラクターになりすぎるのはちょっと違うと思うので、本当にエッセンスとして、ちょっとしたショックが受けられるくらいの感覚でやっていました。少しだけ深みを出すつもりで。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———6話は唯に寄った話です。
第1期のときの唯のイメージソング「ギー太に首ったけ」がとても良くて、ああいう雰囲気で話を1本作れたらと思っていたんです。
———唯が教室でメイド服を着ているシーンについて、気を付けたことはありますか。
ケロッとしていることですかね(笑)。季節とは反対に、唯はカラッとしている子なので。例えば、澪が同じ目に遭ったとしたらモジモジすると思うんですけど、唯は普通に教室でメイド服を着ちゃうような、あっけらかんとしたところが唯らしさだと思います。タイツを干してそのまま行っちゃうとか(笑)。や枠ではやらないことを唯はやる。そこが女子高っぽいところでもあるのかなと。
———男子がいたとしたら誰もやらないですか。
そうですね。唯に男の兄弟がいてもしないと思います。唯には妹しかいないので、そういうところの感覚が鈍いのかなと。律には弟がいますから、やっぱりやらないと思います。
Episode 7
山田監督の見どころ解説
———7話のお茶会はシュールな雰囲気ですね。
シナリオの横谷さんと演出の内海さんの息が合ったからだと思います。横谷さんがテンションが高めなのが得意だそうなんですが、今回が演出デビューの内海さんもテンション高めな絵を描く方なので、その息が合って不思議で楽しい話になったのではないかと。
———視点が今までと違うような雰囲気があります。
曽我部先輩が出てきたので目線が広がりますし、曽我部先輩の存在がシュールだったということもあるのでしょうか。そっちにちょっと寄った感じですね。最後に大学生の曽我部先輩が出たシーンはいい雰囲気でしたね。風と空をとても上手に使っているなと思いました。「少女よ大志を抱け」みたいな(笑)。『けいおん!!』では大人と子供の対比というのをやっているんです。和だって生徒会長をやったり、しっかりしていてそれなりに大人らしいんですけど、本当に高校を卒業した人からしたらやっぱり子供っぽい。ファンクラブのことに一生懸命になっていることなんかすごく子供らしくて、そういう対比が見せられればいいなと思った話数でした。そのため、大学に行ってからの曽我部先輩は、ちょっと大人っぽく見せるようにしています。ああこの生活にも終わりがあるのかなって思っちゃう、ちょっと寂しいような気持ちにもなったりして。でも必ず人は大人になっていくものですので。
担当脚本家・横谷昌宏さんよりひとこと
———お茶会に曽我部先輩が来られないという展開は意外でした。
お茶会をやることになったとき、普通ならば曽我部先輩を招待する流れになるだろうけれど、そこで出してしまうのは何かストレートすぎる気がしたので、現在の曽我部先輩の姿は見せないまま話を進め、最後の最後で大学生になりちょっと大人になった姿を見せるという構成にしました。
———山田監督もおっしゃっていた、大学生の曽我部先輩についてお聞かせください。
この、ラストの曽我部先生の「大人になりぐあい」をめぐって、シナリオ会議の席で、山田監督はじめ女子一同と、石原さんはじめ男子一同との間で著しく見解の相違があったのが興味深かったです。男子はみんな女の子にはいつまでもそのままでいてほしい、大人になってほしくないと願うようです。女子よりもロマンチック度が高いと思います。
Episode 8
山田監督の見どころ解説
———8話は子供時代の回想シーンが多かったです。
原作にある話を入れるということで、ゆったり進んで行く唯を「うさぎとかめ」の歌に乗せました。進路っていうとてもシビアな題材の話だったんですけど、あまりシビアに感じさせずに、でも一応大事な問題としては取り上げつつ、面白くコメデイタッチに描ければということで。
———和が唯を見守る雰囲気でした。
和は実生活でもお姉ちゃんで、お姉ちゃん気質が身に付いちゃっているんだと思います。まぁ、唯もお姉ちゃんですけど。唯が発揮するお姉ちゃん度って、また別のところだったり。ふと気付いたときにすごくかっこよくなったりするのが唯のいいところかなと思うんです。
———律との話では溝の今の性格の理由がわかったりして面白いです。
第1期からもちょくちょく出てきていたけど、明らかに律のせいとか。でも、律に会えたからこその今の澪があるわけです。子供の頃の溝の洋服とか見ていて思うのは、すごく親に大事にされている子だなぁと。白いブラウスとか着せられて。律は絶対、白い服を着せてもらえないと思うんです。汚してくるから、色のある服を着せておこうと。澪はお人形さんみたいに育てられたんだろうなという設定のもと、色を決めました。
———3話で澪がお弁当をフォークで食べていましたね。
「漂って「ママ」とか言っちゃう子なので、フォークだろうなって(笑)。やはりこれでも、同じ感じですよね。大事に育てられたんだと思います。
担当脚本家・村元克彦さんよりひとこと
———進路という重要な話を、どのように描いていこうとお考えでしたか。
亀の「のろまだけど着実に前へ進んでいく」というイメージを、唯の成長のイメージに重ね合わせて、全体をそのモチーフで通すように描きました。この話数に登場する「進路希望調査書」は、唯たちにとって、自分たちの卒業を強く実感させられるものなので、これ以降「卒業まで何ができるか」を意識し始める最初のターニングポイントだと思います。
Episode 9
山田監督の見どころ解説
———9話は期末試験と言いつつ、演芸大会の話でした。オリジナルの話で武本さんが初めて参加された話でもありますが、いかがでしたか。
作業中の席が後ろなんですけど、ものすごく細かく質問してくださいました。絵コンテを1コマ描き進めることに聞いてくるくらいの。キャラクターのこととか、どのように話をさせるとか、どのように立たせるとか、そういうことをとても細かく聞いてくださったので、その分私も細かく答えることができました。そういう風に擦り合わせするうちに武本さんの中にあったキャラに誤解があることがわかって、「そうか、目から鱗だよ」と言いながら作業されていました。枠がとても可愛く描かれていましたね。最初はツンデレなキャラかと思って作業されていたみたいなんですけど、長い話の末に今の枠になりました。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———9話で唯とおばあちゃんというテーマを、町内演芸大会まで発展させた経緯は?
第2期のテーマである「音楽で色々な人が関わる」というところですね。音楽で何かに関わったほうが軽音部っぽいかなと。
———軽音部らしい音楽ではなく民謡調でしたね。
唯もまったく流れを読まない子ではなく、その場で何をしたらいいのか、一応は考えているんです。音楽を始めて3年、人前で演奏していることに慣れてきて「これしかできません」と言うんじゃなくて、場の雰囲気にあわせてアレンジすることができるようになった唯です。だから、民謡調にアレンジしようと言ったのは唯の方なんですよ。
———事前の掛け合い漫才もでしょうか。
たぶん、唯でしょう(笑)。梓は、案を出すとは思いますがリードはしないと思うので枠は唯の考えに、最初は渋りつつも「唯先輩がそういうのなら」「それで喜んでもらえるなら」と折れていったのかもしれないですね。
———枠が「自分も出ます」と宣言したのは一大決心だったのでは。
梓は、なんだかんだ言って唯のいいところをわかってきているので、唯の力になりたいという思いが梓の中に、潜在的にできているのかなと。1年のときは言い出さなかったようなことも、2年間の付き合いがあるから言い出したんだと思います。
———梓が唯を心配している描写が多い気がしますが?
唯はどこへ行っても面倒を見られちゃう子なんですね(笑)。その影響が枠にも及んできちゃったのかな。
———軽音部ではなく2人だけの出場とした理由は?
一応みんな3年生で受験生、期末試験前でもあるので、みんなで出るというのはみんなが時期をわきまえていないというか、大変になっちゃうので、唯がそれを心苦しく思うんじゃないかなと。自分がお世話になっているおばあちゃんだし、枠は自分から言い出してくれたのでコンビを組んだわけです。
Episode 10
山田監督の見どころ解説
———10話はDEATHDEVILの昔のメンバーが出てきたり、屋台に行ったりと、普段とは違った雰囲気の話でした。
今回脚本を書かれた花田さんが屋台に行かせたかったと言っていました。あれは結果的によかったです。大人がいないと行けない場所に軽音部の子供たちがいるっていうのは、いじらしくて可愛くて、ちょっと背伸びして大人の経験しちゃってる感じで。おでん屋のシーンがあるとないとでは全然違うなぁと。今回のさわ子と紀美という大人との対比、比較対象がいて、狙いとしてはとてもわかりやすい話数になったかと。
———大人の目線になるとさわ子先生の葛藤や、結婚式でああいうことをするなんてという気持ちはわかる気がします。
紀美がすごくありがたい存在です。社会人になったら縮こまっちゃう自分がどうしてもいて、世間体ばかり気にして自分の言葉でしゃべれなくなったりとか。紀美は多分、ちょっと自由な仕事をしていると思うんですよ。彼女のように学生時代のノリと全く変わらない感覚で引っ張ってくれるっていうのはすごく大事で、実生活でもそういうことがよくありますね。「人として生きて行く上でそんなに頑なになっていたらもったいないよ」って紀美が言っているような気がします。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———第1期の5話に続いて、さわ子先生の回を担当されましたね。
第1期の5話から、なんとなくさわ子担当になっていたので、この回もそこらへんの流れは意識して書きました。最初は比較的オーソドックスな、先生に彼氏疑惑?みたいな話をイメージしていたのですが、軽音部の尾行が書いててあまりに楽しく話を変えた記憶があります。
———唯たちが手紙を回す描写が女子高生らしかったです。
授業中に手紙を回すのは、ずっと前からやりたかったネタ。律が、さわちゃんの似顔絵描いて、濡を笑わせるところとか、あんぱんと牛乳とか。大好きなネタをたくさん詰め込みました。そのほかにも唯とさわ子のペコちゃん再びとか、結婚式のメイク室でヘビメタメイクの唯たちとか、面白くていろいろ書いたのですが、あまりに長く書きすぎて、本編でいろいろ調整していただく結果になってしまいました。すみません。
Episode 11
山田監督の見どころ解説
———11話の暑い話は、暑さが伝わって来るというか、だらっとした画面でもやっとした感じがありました。
この話は始終キャラに汗を描き込んでいたのと、外は紫外線が強くて明るいから、部屋の中を暗くしたりして、視覚的にも暑さを表現した話でした。テンポもゆったりめなので、より暑いダラダラ感が出たと思います。カット内での流れる時間もゆったりめ。テンポよくはいってるけど、テンポよくダラダラしています。
———先生が車を運転していたりとか、紬の家が少しだけ判明しました。
紬の家で何をされたんですかね(笑)、さわ子先生の肌がつるつるになっていましたし。たぶんすごいおもてなしをされたんだと思います(笑)。
担当脚本家・村元克彦さんよりひとこと
———今回の見どころはどこでしょうか?
夏の一エピソードですが、部長会議の予行演習という形で、面と向かっては言いにくいような、梓の素直な気持ちを言わせました。また、トンちゃんの成長を見せることで、唯たちにも自分たちの成長を感じさせました。しかし、見所はなんといってもあの危険な扇風機でしょう(笑)。シナリオでは、「前のカバーが外れ、羽根が飛んでいき、煙を出してひっくり返る」だったのですが・・・・・(笑)。
Episode 12
山田監督の見どころ解説
———夏フェスのシーンは画面に臨場感がありましたが、実際に取材に行かれた人の経験なんでしょうか。
行かれた方に聞き取り取材させていただいたり、映像を見たりしました。私も何度か行ったことがあるんですが、泊まりがけの夏フェスには行ったことがなくって。だから山という臨場感は夏フェスの映像のほか、夏フェス以外の夏のイメージや思い出を美術に反映させてもらいました。音響さんにも、山での音響がどうなる。か聞きましたね。野外フェスって音だけが響いていたりとか、ちょっと音の聞こえ方が独特だと思うんですよ。だから音を調整してもらったり、音の臨場感をすごくうまく出してもらってて、あとはスタッフがすごく楽しんで作っていたというのがあるのかもしれません。音楽のジャンルごとにお客さんが違うので、服の違いを調べて描いていただきました。
———雨の中でも合羽着てやるんですね。
山なので雨が降りやすいっていう話だったので、演出の坂本さんがコンテ時に雨が降る描写を入れてくださいました。雨が止んだ後の、灰色がかった黄色みの光線が入っている色が絶妙で大好きなんです。夕立の後ってこんな色になるなっていう色で。あとポイントは、ラストカットで流れ星が流れているので注目してみてください。2つ3つ流れていますよ。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———野外フェスの資料を集められたそうですね。
レポートを見ていると本当に行きたくなってしまいそうな。夏ならではの熱気あふれる資料をいただきました。
———バス移動の部分はアニメオリジナルですが、あれもレポートにあったのですか?
そうですね。自分で考えたりした部分もあります。唯がバスに弱いのは、よく転んでいるので三半規管が弱いのかもしれないですね。
———澪が特にはしゃいでいました。
生のライブを見て一番興奮するのは薄じゃないかと思ったんです。澪はアーティスティックでロマンチストな一面がありますから。律があまり騒がないのは、がテンションが上がったときに抑える役割に回るからです。律とは、2人一緒にはテンションが上がらないタイプのコンピかなと。
Episode 13
山田監督の見どころ解説
———13話は下級生の話でした。
全ては最後のお祭りシーンのためにという感じですかね。ダイナミックで面白かったです。枠が寝過ぎじゃないかとスタッフ間で話題になっていたんですが(笑)、なるべく枠があんなに寝ているところに不自然さが出ないようにと気を遣っていました。
———夢と現実とで色味に違いはありますか?
夢でした、ということがオチにはならない話なので、最初から梓の肌の色で分けました。夢の中の枠が白いのは、潜在意識の中では焼けているという意識がないからです。で、焼きに行ったところで初めて黒い梓にしている。その段階で「これは夢ですから」と答えを出しているわけです。ちなみに梓の夢の中は枠は真面目な子なので、より背景をきっちり描いています。すごく現実的な子ということで、実物の背景よりもきっちり描いています。あまり差が出なかったかもしれないですけど。
———焼きそばスライダーの案はどこから?
あれは横谷さんです。最初は流し焼きそばみたいな感覚で書いてらして、スライダーの横で待ち構えていて取れなかったっていう意味だったみたいなんですけど、私が滑りながら食べられなかったのかと勘違いしていたことがきっかけで、ああなりました。
担当脚本家・横谷昌宏さんよりひとこと
———13話は梓の夢がメインになる、珍しい展開ですね。
シリーズ構成の吉田さんからは、「2年生の夏休み話を」という発注で、唯たち3年生は最後の夏祭りのシーンまで登場せず、2年生たちだけの夏休みを描くということだったのですが、自分の力量不足ということもあり、2年生だけでどうしてもうまく話をもたせることができず、悩みに悩んだ末、梓の見る夢の中に出てくる唯たちという構成にしてしまいました。最後に本物の唯たちと合流したところで、梓の唯たちへの想いがより際立つ構成になったと思いますが、物語的には夢が連続し入り乱れる形で、「けいおん!!」の中ではかなり異質なエピソードになってしまったのではと思います。
Episode 14
山田監督の見どころ解説
———14話は原作ファン待望の話でした。
この話数はシナリオが決まるまで時間がかかったかもしれません。オリジナルも入っているけど、原作でとても大事な話数だったので。結局、唯と和のコントが上手く織り混ざって、1本の筋になっているのが美しかったです。
———具体的に気を遣ったシーンは?
紬の反応ですね。アニメの紬は少し幼い感じなので、その辺はアニメ寄りの味付けをさせていただきつつ、原作のちょっとお姉さんぽい紬も魅力的なので、それも表現したいしというところで、紬の反応には全てとても気を遣いました。律も、それを受けての反応などをかなり何回もチェックしました。律は男の子に見えちゃったら、それはそれでかわいそうなので、女の子同士で遊んでいる感覚は残したまま、ちよっと律が頼もしく見えるという微妙なさじ加減でなんとかできないかと考えましまたね。
———和がケーキのイチゴを食べるところは色々話題になりました。
あれは和なりの正義があったんですよ。本体を食べたら申し訳ないなと思ったからイチゴにしたんです。スポンジのところを食べたら悪いと言っていましたし。和なりに理は適っているんです。
———あれは多くの人が唯に共感したのではと思います。
今回は唯の方が正しいんですけど、でも唯がわがままに見えちゃう不思議。あれ何なんでしょうね(笑)。唯は悪くないですよって思います。
———唯があれほど主張するのも珍しいですね。
あれは、長年寄り添っているからこそ伝わりづらいのが悔しいんだと思うんです。和とは夫婦みたいな関係なので「和ちゃん、なんでわかってくれないの!」という感じ。相手が和だからであって、他の子が相手だったらもうちょっと諦められる気がします。
———ちなみに監督自身としてはイチゴを取られたらどうですか?
びっくりします(笑)。
———紬にイチゴを取られたときの溝の反応も面白かったです。
多分、あの瞬間は澪の中でものすごい葛藤があったんです。これが律なら殴れるのに!でも紬はそういうキャラじゃないし、でも突然何したんだ。でも紬からもらっているケーキだし、とか。その結果、泣くしかなかった(笑)。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———「夏期講習」というタイトルですが勉強シーンは少なめです。
律と紬のデートの本筋は原作にあるので、他のメンバーをどうやって配置しようかなと考えながら書いていました。当初は夏期講習からスタートだったのですが、やっぱり受験で真面目に勉強する唯たちがいまいち楽しそうではなく、第1期第2期通して、最も大きく直しを入れたシナリオでもあります。これも、唯と和が楽しくていろいろ書いているうちに、尺がオーバーして大幅に削った記憶があります。
**———かなり苦労されたようですが、思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
紬が澪のイチゴ食べちゃう所は、コンテで本当に面白くしていただいたと思っております。「やっぱり、天然産は鮮度が違うっ」が自分的にはお気に入りのセリフ。
Episode 15
山田監督の見どころ解説
———15話は第1稿からかなり変わった話だそうですね。
最初は「アクション回にしましょう」と言っていたんですけど、『けいおん!』っぽくしていったら、だんだん普通な感じになっていきました(笑)。
———お餅の話や、一緒に走ろうなど、リアルなネタが結構ありました。
女子高生のダラダラした感じが出せればなって思ったんです。「一緒に走ろうねー」とか言い合う感じの。私も苦手だったので、マラソン大会が・・・・・・。
———マラソン大会は苦手な人が多いですね。
好きな人がいたら教えてくださいって感じなんです(笑)。マラソン大会は行事の中でも一番苦手なので、思い出したくないですね・・・・・・。もう本当に嫌いでした(笑)。
———軽音部のみんなも、やる気に満ちてはいなかったですよね。
そうなんです。だから女子高生の気持ちを代弁したっていうことですね、ええ!なんでもかんでもやる気満々じゃ嘘くさいだろうって。
担当脚本家・横谷昌宏さんよりひとこと
———13話に続いて完全なアニメオリジナルの回ですが、苦労した部分はありますか?
「マラソン大会で、オリジナルで、テンション高い話を」という発注だったので、好きに書かせていただきました。最初に書いたプロットは、唯たちがルートをはずれて山で遭難したり、そこでさわ子先生が昔マラソンコースを走ったときの痕跡を見つけたりと、かなりあざとくお話を作ってしまい、「もっと普通の話で」と言われ全ボツをくらいました。ラストのお汁粉については、「マラソン大会のあとにお汁粉はアリか?」で議論が戦わされましたが、結局、監督の「うちの学校ではお汁粉だった」という一言で、アリという結論になりました。
Episode 16
山田監督の見どころ解説
———16話は梓の目から見た先輩たちの話でした。
すっかり子育てが身についた女の子が、ふと「元の私はこうじゃなかった」と思うような話ですね(笑)。について軽口を叩きながらも、すっごい楽しそうで、何をしゃべってもノロケ話になっちゃう枠が可愛いんですよね。梓は先輩たちがいざとなればしっかり演奏をするのはもうわかっているので、第2期では先輩たちにヤキモキしなくなっています。それどころか梓もそれなりに先輩たちを尊敬しているんですが、いざ自分に立ち返ってみると、「あれ、私ってどんな子だったっけ?」となるんです。
———だから「カムバック、あたし!」なんですね。
コンテ前の打ち合わせで演出の高雄さんとどんどん話が盛り上がって、先輩たちの口癖を出せばもっとわかりやすいかもっていう話になって。それで、枠が「ふんす!」って言いながらドアを開けるシーンを足したりと、楽しんでやった話数ですね。
———枠が袖にギターをかけてあげる時の一連の動きが印象深かったです。純が自分の髪の毛を持ち上げるのを見て、自然な仕草だなと。
高雄さんに「髪の長い人って、どうするの?」って聞かれて、「上げる感じで…」つて言って、ああなりました。枠にやってもらうんじゃなく、相手に対する気遣いとして自分でやるところがムギっぽいんですよね。卒業式でお花つけてもらう時にも、ムギは自分で髪を上げてるんです。そういうところでキャラクター性が出てきますね。
担当脚本家・村元克彦さんよりひとこと
———梓視点で進んでいく今回、描きたかったことは?
梓から見た唯たち先輩像を改めて捉え直しています。このあたりから最後の学園祭が具体的になってくるのですが、それに向けて、梓の気持ちを整理することによって、同時に軽音部の結束が深まるように描きました。梓が他の先輩たちと部室で2人っきりになったときに、どういうやり取りをしているかも楽しんでいただければと思います。
Episode 17
山田監督の見どころ解説
———17話は、校内を転々とするのが面白いですよね。
流浪の民です。
———『子連れ狼』を思わせる風車が回っている描写もありましたが、あれはシナリオの段階からあったのでしょうか?
あれは絵作りの時に足されていました(笑)。
———『子連れ狼』といえば風車だろうと?
明言はしませんが、あんな車をゴロゴロ押したら、やっぱりどうしてもねぇ。ほしくなりますよね(笑)。
———そして、唯がすごい歌詞を作ってきた回でもあります。
第2期になって忘れ去られてた唯天才説ですね。オリジナルの話と原作の話がすごく上手く融合されたなと思います。
———「U&I」の歌詞もよかったですよね。
憂のためだけじゃなくて、部室が使えなくなったことでも出来た歌で、とても素敵な歌詞になったと思います。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———この回は、どういう風にして作られたんでしょうか?
前にガールズバンドの方を取材させていただいた場所が、貸スタジオだったんですね。その方たちは社会人バンドだったんですが、学校みたいに部室がないので、練習場として貸スタジオを借りるとおっしゃっていて。貸スタジオのシステムも結構面白くって、これ活かせないかなっていうことでこの話を作りました。
———演奏場所を求めて唯たちが放浪していく描写がありました。
みんなで台車でガラガラ学校移動したいな、そういう絵があったら面白いな、トンちゃんも大五郎みたいに乗っけたいなと思って入れました(笑)。高校生にしてはちょっとレトロな発想ですが、いまどきの女の子だけど、ちょっと泥臭くて垢ぬけないところが唯たちのいいところだとスタッフが感じているのでこういう方向性になっていくんだと思います。
Episode 18
山田監督の見どころ解説
———喫茶店でメイドの格好をしたり、「ロミオとジュリエット」でジュリエット役をやったりと律が苦労する回でした。
なんだかんだと、りっちゃんを主役にしたいなと思って作った話なんです。ぱっと見るとの話に思えるんですが、よく見るとりっちゃんがいないと成り立たないお話なんですよね。溝をいつも支えてるリっちゃんが見られるといいよねということで、「主役!」というタイトルになりました。
———律と湾が部屋で悩んでるシーンは、しっとりした雰囲気でいい感じでしたね。
あそこ、私も好きですね。仲のいい友達なんですけど、仲がいいがゆえの艶めかしい雰囲気がすごく出てて、音楽も何も要りませんよっていう。あれは女の私もドキドキしました。親友との距離がすごくよく出てましたね。
———その後、溝をベッドから落とすという(笑)。
落としてくれてよかったです。あのままいってたらドキドキし過ぎてしまいますから。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———18話から、原作でも人気が高い律と澪の話が始まります。
学園祭準備編。これは、最も多く原作があった話だったので、原作の空気を壊さないように、どちらかというとアニメの設定をうまく原作に溶け込ませるというやり方をしていたように思います。後半のメイド話は、ありがちな感じにしないでほしいと監督からオーダーがあり、なるべくメイドにこだわらないような形で書いた記憶があります。原作が強く出ているところなので、なるべく変えずに繋げられるよう注意しました。自由度の高いオリジナルよりもそっちの方が実は難しかったりします。
Episode 19
山田監督の見どころ解説
———学園祭2日目で、『ロミオとジュリエット』を実際に演じている話です。
女子高の学園祭を描いた『櫻の園』という映画が好きで、その空気を出せないかなと思って挑んだ話です。特に19話は教室で準備しているところや、本番よりも準備の方が楽しくて大事な学生特有のテンションの上がり方など、あの時にしか味わえない空気を出してもらうようお願いしてますね。キャラも情報量も多くて大変でしたが、スタッフさんにはすごく頑張ってもらいました。
———木Gを演じた顔芸といい、唯の存在感も強かったですね。
最初は演出さんがちょっと気を遣ってらっしゃったので、「これぐらいやってもいいですよ!主役だからって気を遣っちゃダメです」って言って、やりすぎなくらいやってもらいました。結果、鼻がびくびくしたりして、とっても可愛くなりました。
担当脚本家横谷昌宏さんよりひとこと
———澪と律に引き続きスポットが当たる一方、クライスメイトの会話も盛んでした。
「学園祭のガヤガヤした楽しい雰囲気を」という発注で書きました。クラスの女の子たちもいっぱい出してということで、キャラ表と照らし合わせつつ、誰にどんなことをやらせようか?など楽しんで書きました。オカルト研に友達がいるのは誰にしようかと考えたりとか。あと、劇中劇の「ロミオとジュリエット」の台詞に関しては、翻訳出版されているものをそのまま使うと著作権的にまずいので、その翻訳をもとに自分で意訳してみたり原文を調べてみたりとかも、面倒ながらも楽しい作業でした。
Episode 20
山田監督の見どころ解説
———学園祭最終日、ついに軽音部のライブの回ですね。
シリーズ内のクライマックス的なお話ということで気合の入った話数です。普通の女子高生が学園祭でやるライブであることが一番大事でした。ライブが大成功するわけではないけど、唯たちがみんなから好かれてて着実に友達を増やしている、そういう彼女たちが晴れ舞台に立ったらどうなるかっていう、本当にささやかな出来事彼女たちからしたら大事件ですけどもっていうお話ですね。
———いい意味で、大物感がなかった印象です。
そこをもう本当に、一番気をつけました。プロじゃなし、アイドルでもないし、ちょっとぐらいお寒くてもそれはシロウトだから仕方がないじゃないっていう。
———敢えて寒さを出そうと意識されていたんですね。
だからライブ中は劇伴(BGMのこと)も全部なしにしてるんですよ。音響監督の鶴岡さんは「これで場がもたなかったら、お前らはその程度のやつだー!って画面の中の唯たちに言ってましたね(笑)。おかげでより独特な緊張感が出たなと思います。
担当脚本家村元克彦さんよりひとこと
———学園祭ライブシーンが、第1期のものと比べるとかなり長くなっていますね。
当初のコンセプトは「一本丸々ライブ」でした。実際には当日の朝から夕方までになりましたが、唯たちにとって決して忘れることができない一日を、ご覧の方たちにも一緒に過ごしていただけるように流れを考えていました。高校生活最後のライブということで、1年生のときとは違い、クラスメートとの盛り上がりや、支えてきてくれた人々への感謝の気持ちや、ずっと一緒にやってきたメンバーそれぞれへの思いが表現できていれば幸いです。
Episode 21
山田監督の見どころ解説
———20話でクライマックスを迎えた後の話で、気が抜けるというか、ふわっとした空気が漂っています。
唯たちの少女性を表現するために、自分的にもかなり気合を入れた話数ですね。今まで無意識に目の前のことばかりを楽しんでいた子たちが、楽しい日々が終わることもあるんだと気づいて、卒業を意識し始める。そんな、ちょっと先が見えた瞬間が20話だとすると、21話はそれを迎えた彼女たちが少しずつ大人になろうとしている話です。一瞬見える表情が大人びていたり、瞬きをした瞬間にちょっとだけ大人になってるような、見ている側がふと目を感じそうな、そんな話数になるといいなと思って作りました。
———話としてはコミカルなんですけど、どことなく落ち着いた雰囲気が漂っています。
いつもの唯であることには変わりないんですけど、ほんの少しだけ彼女の中の何かが変化しはじめていて、ずーっとカメラを据えて追っていきたいなと思った話数でした。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———21話は卒業アルバムの話ですが、アルバム用の撮影をするときの感覚、心理描写は、ご自分の経験に基づくものですか?
中学生の時の卒業アルバムが、生徒が自分たちで撮った個人写真からどれがいいか選ぶというものだったんですけど、私だけ目をつぶった写真が選ばれちゃって。「これはイヤ!」って言ったのに、「いや、これがいいよ。みんな目つぶってないから、これがいいよ」って言われて。結局卒業アルバムに目をつぶって笑ってるっていう写真が載っちゃってすごいイヤだったので、その時の気持ちを思い出して書きまし(笑)。
———唯が見せた髪型へのこだわりは、吉田さんの気持ちを元に書かれていたんですね。
はい、私はもっとひどい写真が載せられたので(笑)。
———みんな女の子だけあって準備に余念がありませんでしたが、吉田さんも撮影前には色々と準備されましたか?
やっぱりみんな、どういう角度で写ったらいいか考えたりとかしてましたよね。後々残るものなので、女の子にとっては結構重要な写真じゃないかなと。
Episode 22
山田監督の見どころ解説
———22話は、バレンタインの話でしたね。
この回は梓の方の区切りを描いた話です。原作のお話から時系列を1年ずらしたことによって、梓と先輩たちの関係性がちょっと違っているので、その辺少し手を
加えさせてもらっています。
———枠が先輩たちの卒業を実感していく過程が描かれていました。
寂しい寂しいって言ってるばっかりじゃなくて、「来年からは先輩になるんだし」って思えるような、ポンッと背中を押せるお話でした。先輩たちの将来の幸せを、心から願っている梓になりましたね。
———梓目線だったせいか、この回の唯たちは実に先輩らしく映りました。
そうですね、梓がバレンタインのケーキを渡したいけど渡せない心情を、わかってて迎えてあげたりとか。ちゃんと先輩してましたよね。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———本編で花田さんが担当された話数は今回が最後です。
バレンタイン話。構成の関係上、原作から1年時間がずれていたので、卒業を前ににだけチョコをあげることは、さすがに枠はしないだろうということで全員にあげることにしました。シナリオ上では台詞はそのままですが、雪が降っている描写はありません。監督と演出の方に素敵な雰囲気にして頂いたと思っております。合格発表の時に、最初から諦めている澪がすごく澪っぽくって書いてて楽しかった。と同時に、もうすぐ終わるんだぁ。もう書けないのかよ。と唯たち同様寂しさを感じていて、それがシナリオにも滲み出ている話でもあります。
Episode 23
山田監督の見どころ解説
———23話は卒業式直前の不思議な雰囲気でしたね。
『湘南爆走族』という漫画があるんですが、この漫画の最終巻が好きで、卒業式ののとても真っ白いお話があるんですよ。いつも通りだけど、コトが起こる前の静かで何か少しずつネジがズレているような時間。それを非日常というのはどうかと思うんですけど、何かいつもと少し空気の匂いが違うみたいな。『けいおん!!」でもそういう話が出来ればなと思って作りました。お祭り騒ぎで終わるのもいいんですけど、一回フッと考えられる隙間がほしいなと。
———この話数も劇伴が少なかった印象があります。
実は結構流れてたんですけど、空虚な空気が勝ってるのかなだとすると大成功ですね。いつも通り過ごそうとしているけど、何か本当に空っぽな感じ・・・・・っていう。
———部室に一日中いたことで描かれた、陽が昇って沈んでいくまでの光線の変化も印象的でした。
外が暗くて窓に蛍光灯が映ってる、あの特別な感じが出したかったんです。夜まで学校にいるって、なかなか経験出来ないですよね。
———その変化が画面の中に描かれることも、珍しいですよね。
学校って、意外と蛍光灯が点いてる印象がないんですよ。台風とかが来た時に点いてることに気づくくらいで。ちょっと暗い学校っていいですよね。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———23話はアニメオリジナルのエピソードでした。
卒業前の最後の放課後の話は、ずっとやりたかったんです。卒業式の時よりも、もしかすると寂しくなっちゃったり、色々考えることがあるのかもしれないなと思って、あえてその1日をやるっていう感じですね。
———授業もなければ、ずっと騒いでるわけでもない、ただなんとなく部室にいながらも、どことなく寂しいという、あの空気感はまさに『けいおん!』らしいなと思いました。
「ここでみんなと一緒に3年間過ごしたんだな」と、色々な気持ちがありつつも、少しじわっと滲む雰囲気が出せればいいなって思いながら書きましたね。
———作中で放課後ティータイムのみんなで演奏を録音することになりますが、どなたのアイデアだったのでしょう?
それは私ですね。どうやって録音するかみんなで悩んだんですけど、カセットレコーダーがあったと思って。カセットは世代的にどうなのかとも考えたんですが、第1期の合宿の時にカセットを使ったし、いいかなと。
Episode 24
山田監督の見どころ解説
———冒頭の青っぽい光線に、朝の時間帯や季節感が表現されていますね。
春がもうすぐそこまで近づいてるけど、朝は少し寒いじゃないですか。でも光線はちょっと強くって。あの空気がピリッとした感じをどうすれば出せるかなと思って、彩度を落としてああいう色にしてます。
———季節感もそうですが、何より卒業式の朝のような特別な印象を受けました。
よかった。そうなんです、あの空気感を出したくて、誰もが同じものを見てるかはわからないですけど、でもきっと感じるものは共通しているかなと。早春の、ちよっと薄めの青空なんですよね。白い日光があって。
———同じく印象深いのが、部室で「天使にふれたよ!」を聴きながら再び泣きだしてしまった枠の大粒の涙です。
大粒派なんです、大粒なのが好きなんです(笑)。その方が、ちょっとミスマッチな感じが出るかなと思って。それくらい梓が泣くっていうことは大変なことなんですよ!
———あんなに棒が泣くのは第1期9話以来でしょうか。
あんまりキレイに馴染みすぎると、それこそ雰囲気に流されちゃいそうだなと思って、ちょっと違和感が出るように意識しましたね。
担当脚本家・吉田玲子さんよりひとこと
———いよいよ卒業式なんですが、最終回はどういうイメージで作られたんでしょうか?
学園祭のライブの時に唯たちはもう泣いてしまっていたし、監督からも「けいおん!!」らしい、あまり涙のない卒業式にしたいという要望がありました。唯たちはもう泣かないで、静かに卒業することを受け入れてるみたいな雰囲気を出したかったんです。
———枠がみんなに手紙を書いて渡しますよね。それぞれにどんなことを書いたのか、気になります。
作中では出てこなかったんですけど、あの文面も考えてありました。尺の問題で入れられませんでしたが、文面はみんなに対する感謝の言葉です。
———卒業式のシーンは、当事者である唯たちが寄せ書きを隠すのに夢中で、卒業式に集中してなかったのがリアルでした。
たぶん唯たちはこの1年で、卒業っていうことを徐々に徐々に受け入れたと思うんですよ。だから結構あっけらかんとしているんです。逆に梓やさわ子のような周囲の人たちの方が、卒業式当日になってようやく唯たちが卒業するという現実に直面して、じんわりきてますね。
Extra Chapter 1
山田監督の見どころ解説
———PVを作ったりと、一転して明るい話でした。
最終回で唯たちの思い出を振り返らなかった分、今まで拾えなかったお話を入れたりして、自然な形で回想出来たかなと思います。最終回に回想を入れちゃうと、いかにもな感じになっちゃいそうというか、「彼女たちの思い出は、そんな簡単な回想で終わらせられるもんじゃない!」と思ったので。卒業式はもう前に前に行く感じにしたかったんですよね。残り2話があったおかげで、思い出の話が無理なく入れられました。
———20話以降、みんながお姉さんっぽくなっていきましたが、この番外編では普段この調子を取り戻している感じがあります。
卒業した1日後に唯たちが何してるのか見てみたいなとも思ったんですけど、結果こっちでよかったと思います。1年生の時のまだソワソワした関係のみんなや、まだちょっと敬語が出ちゃうようなムギとかも描けたし、唯が21話で前髪を切っててくれたおかげで、時系列の入れ替えも上手くいったし(笑)。
———確かに、唯の前髪から番外編の時間軸がわかりましたね。視聴者的には、カメラ目線で問題を教えてあげる振りをする、面倒くさい唯が久しぶりに見られた回でもあると思います。
唯やりっちゃんが、あんな風に調子に乗ってると何だか安心しますね。
担当脚本家・横谷昌宏さんよりひとこと
———ギャグが多めの回ということで、脚本も楽しく書けた感じなのでしょうか?
番外編ということで、これまでよりもテンション高めのギャグ話でもOKということで、肩の力を抜いてとても楽しく書かせていただきました。企画会議のぐだぐだ部分はさくさくと楽しく書けましたが、実際にどんなPVにするかについてだけは梓同様、かなり悩みました。インタビュー形式にすればいいんだ、と思いついたときも梓同様、「そうだっ!!」という感じでした。
Extra Chapter 2
山田監督の見どころ解説
———時系列的には23話の直前くらいでしょうか?22話と23話の間ですね。
授業が減ってきて卒業前に色々整理したりする、モヤモヤした時期です。
———最終回とは違う、さわ子視点の描写が余韻を醸し出していますね。
これが最終回になってもいいように、っていう感じのお話です。さわ子先生も軽音部の先輩ですしね。だから過去に高校生だった人は、きっとさわ子先生の気持ちがよくわかると思います。
———そういえば、唯たちがさわ子先生の家に行ったのは初めてですよね?
初めてです。この話のために新しくさわ子先生の部屋の美術設定を起こしたんですけど、すごい時間がかかったんですよ。
———紬が、すごくワクワクしていましたね。
ムギはいつでもファーストタイムな感じなので(笑)。
———後半の部室のシーンでは、梓だけでなく純と憂が登場したことにちょっと安心もしました。
原作の最終回での「確保ー!」は入っていないけれども、アニメでもちゃんとそちらに向くような想像は出来るかなぁと。だから安心してくださいね、と思いながら作ってましたね。梓は1人にはならないよ、って。
———唯たちも、安心した感じでしたもんね。
はい!引き継ぎでしたね、あれは。
担当脚本家・花田十輝さんよりひとこと
———これが本当に最後ということで、お話のまとめ方や、思い出に残ることをお聞かせください。
放送では最終の回になるかも。というお話をいただいて、ラストはちょっと最終回っぽくしてあります。パッケージの写真ネタは監督から出たもの。そこに、卒業アルバムの唯の髪の毛のネタを吉田さんから頂いて、さわ子の家にいくという原作の流れに繋げる構成にしてあります。一応の区切りということもあるので、OG、唯たち、梓という軽音部の歴史がバトンタッチされていくんだという流れをうっすら入れ込もうと思いました。原作の流れをいかしつつうまく出来たと思います。第1期最終回とこの話は普通に泣きながら書いてます(笑)。